株式会社建築工房グエル

05 歩行速度

■歩行速度
歩行速度は歩行時間(ttravel)を算定する際に用いられる数値です。2023年3月に発行された『避難安全検証法(時間判定法)の解説及び計算例とその解説』(以下、新解説書と称します)P68では「建築物の部分の用途、建築物の部分の種類と避難の方向に応じて与えられる数値」とされており、これは『2001年版 避難安全検証法の解説及び計算例とその解説』(以下、旧解説書と称します)でも同じ表現となっています。
水平部分に限定すれば数値は60m/分か78m/分の2種類【注1】があり、店舗やホテルなどは「不特定の人が利用する」ことから60m/分、共同住宅やホテルは「不特定の人が利用し就寝状態がある」ので60m/分、学校や事務所は「建築物に慣れた特定の人が利用する」ので78m/分が与えられています。(「」内の表現は新解説書P69の表3.4-2から)

【注1】劇場部分の客席は30m/分になります。

■階全体か居室単体か
この歩行速度の数値、階全体の用途から判断した数値を全室に適用する、つまり、(水平部分の)歩行速度は階に1種類なのか、それとも階の用途を考慮しつつ、居室単位の用途で判断し各室ごとに異なる数値を適用するのか。その判断は新解説書P69の表3.4-2に「建築物又は居室の用途」とあることから居室ごとに適用する数値を判断するのが正しいようです。例えば弊社に依頼された場合、店舗用途の中の「事務室」は、階全体から判断すると60m/分になりそうですが、「事務室」用途は特定の人が利用することから78m/分を適用しています。

■旧解説書の適用例
ただ、居室単位で判断することはやや疑義があり、旧解説書のP232の「ホテルの宴会場」の適用例では「大宴会場」の歩行速度は30m/分(劇場の客席部分同等と判断?)、そして、特定の人が利用すると思われる「厨房」では60m/分とされていました。

■新解説書では
この部分については新解説書で追記、修正が入っています。まず、階歩行時間の定義部分、新解説書のP108では次のような表現があります。
避難経路の途中に異なる歩行速度がある場合は、各部分ごとの長さを図面等から読み取り、各部分の種類及び避難方向に応じて与えられる歩行速度・・・・
つまり、歩行速度が異なる部分を通過している経路は、その部分ごとに与えられた歩行速度を適用する、と読み取れます。【注2】
次に「ホテルの宴会場」の適用例ですが(新解説書ではP190)、「大宴会場」の歩行速度は30m/分から60m/分に修正されていました(固定の座席でないからでしょうか?)。そして、「厨房」の歩行速度は60m/分から78m/分と「特定の人が利用する」数値になっています。
したがって、歩行速度の数値は階全体の用途を考慮しつつ、各居室単位で判断することが明示されたことになります。

【注2】「各部分」との表現なので「各室」ごとではない可能性もありますが・・・・

■歩行速度が2種類?
新たに追加された適用例の「物販店舗」(新解説書P02)でも「売場」の歩行速度は60m/分と不特定人が利用する数値、「事務室」の歩行速度は78m/分と特定の人が利用する数値が適用されています。また、物販店舗の適用例は後に訂正が入りますが、その正誤表でも「バックヤード」の歩行速度は78m/分と「特定の人が利用」の数値が与えられています。

正誤表_2023.7.19

居室単位の検証では60m/分と78m/分の部分が混在しています。しかし、階全体の検証時の「階歩行時間」の算定では最長歩行経路は「売場→バックヤード→屋外」が示されているのですが、歩行速度は60m/分のみで算定されていました。

つまり、「バックヤード」の歩行速度は居室単位の検証では78m/分と階全体の検証で他室からの経路の場合は60m/分が適用されていることになり、水平部分にも関わらず歩行速度が2種類存在することになります。【注3】

避難開始点が「売場」で60m/分の部分のため、その歩行速度を維持したものと考えられますが、では「バックヤード」や「事務室」が避難開始点の場合の歩行速度はどうなっているのか、確認しようにも階の避難経路が「売場→バックヤード→屋外」以外示されていませんでした。

【注3】階段は避難方向(上・下)によって2種類の歩行速度が定められています。

ポイント
物販店舗など不特定者の利用がメインでの建物でも「事務室」など従業員利用がメインの室の歩行速度は78m/分になります。


※内容は予告無く変更する場合があります。
※記載する内容については告示の文章・計算式から判断した建築工房グエル独自の判断になります。


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