株式会社建築工房グエル

06 居室に面する直通階段

■居室→直通階段の煙伝播経路
弊社への依頼案件では居室に直通階段が直接面している場合が多々あります。この場合、問題となるのは「居室→直通階段」の煙伝播経路の扱いです。

階煙降下時間(ts)として算定すると通常規模の居室では煙降下時間は1分以内となり、そのため、「居室→直通階段」を階煙降下時間として扱うと最短煙降下時間も1分以内となってしまいます。比較対象となる階避難時間(tescape)では、階避難開始時間に無条件で加算される時間(3分or5分)があるので、その時点で判定はNGとなってしまいます【注1】

そのため、「居室→直通階段」を階煙降下時間の対象外とできるかどうかをまず、審査機関に確認しもらうことになります。根拠は『2001年版 避難安全検証法の解説及び計算例とその解説』(以下、旧解説書と称します)には特に明記されていませんが、次の建築基準法施行令や告示の文章から判断しています。

□建築基準法施行令第129条 3のホ
□告示510号
当該火災室において発生した火災により生じた煙又はガスが、当該階の各居室(当該火災室を除く)及び・・・避難上支障のある高さまで降下するために要する時間を・・・

この表現の「当該火災室を除く」から居室限定なら「火災室→直通階段は階煙降下時間算定の対象外」とできるものと判断します。ただ、審査機関によっては前室(付室)、居室と直通階段の間に防火設備で区画した1室を設けるように指示が出ることがあり、その場合はその旨に従っていました。

【注1】数千㎡規模の居室ならOKなることがあります。

■『避難安全検証法(時間判定法)の解説及び計算例とその解説』では
この件については2023年3月に発行された『避難安全検証法(時間判定法)の解説及び計算例とその解説』P26「(e)直通階段の扱い【運用】」に触れられています。

まず、「当該火災室を除く」件ですが、次のような記載があります。

・・・とあるのは、当該居室(火災室)の在館者の避難安全性は居室避難検証(第一、第二)で確認されていることを意味しており、当該居室(火災室)で火災が発生した場合の階の避難安全性(階避難完了時間と階煙降下時間の比較)の省略を意味するものではない(質疑応答集No.18棟参照)。

その質疑応答集No.18は次のような内容になっています。
【質問】
全ての階段が居室に直接面している場合、居室の避難が安全に行われることが検証されれば、階の避難安全性の検証は不要となるのか。
【回答】
この場合でも階の避難安全性能の検証は必要です。
階段への出口のある室が階煙降下時間の計算対象となります。

この質疑応答では居室の数が不明です。もし、居室が一つだけなら、その居室が相当規模の面積を有していない限り階避難安全検証法の判定はOKになりません【注2】
複数の居室があり、階段も複数の居室に面している場合だと「火災室とした居室→他の居室→階段」の煙伝播経路が発生することになり、この経路についての検証は必要ですが、「火災室とした居室→階段」についての明記はありません。

【注2】居室が1室で避難階の場合(避難先が地上)は新解説書P47の記載により階避難安全性の検証は不要にできるようです。また、避難先が階段の場合は「区画」避難安全検証法を選択すれば区画避難安全性の検証を省略できるため居室単位の検証のみでOKとなります。ただし、階避難安全検証法を選択した場合は、階全体の検証は回避できないようです。なお、階避難と区画避難では適用除外とできる項目が異なるので注意が必要です。

■付室はいるのかいらないのか
回りくどい表現のため、分かりにくくなっていますが基本的には居室と階段との間には付室が必要ということを示した、と思われます。ところが、新解説書P27には「付室の設置を不要とできるケース」が示されています。

(1)直通階段が当該居室の専用階段である場合
その直通階段階段を利用しなくても当該居室以外の部分が避難可能であれば当該居室専用の階段として付室の設置は不要とされています【注3】

【注3】直通階段に直接面している居室が1室のみだと、新解説書P47の記載により階全体の検証は回避できないとされているため、検証判定をOKにするにはやはり付室の設置が必要になってきます。また、階避難完了時間算定のため、複数の直通階段は必要になります。

(2)区画避難安全検証法を適用する場合
階避難安全検証法と異なり、区画避難安全検証法では「歩行距離等の避難完了時間に関わる規定の適用を除外しないことから、当該区画部分からの避難が早期に完了すると考えられる。そのため、上記の対策が講じられていれば、当該区画部分からの避難が完了するまでの間、直通階段に煙が侵入するおそれはないものとみなす」と記載されており、付室は不要にできるとされています。

(3)全館避難安全検証法を適用する場合
特に理由は示されていませんが、全館避難安全検証法を適用すれば、付室は不要にできるようです(一部例外はあり)。ただし、全館避難安全検証法の判定をOKにするには基本的に火災室と竪穴との間には煙降下時間を引き延ばす前室的な空間が必要になるため、階段の付室もほぼ必須になるものと思われます。

ポイント
居室に面する直通階段に付室が必要かどうかは審査機関にご確認ください。


※内容は予告無く変更する場合があります。
※記載する内容については告示の文章・計算式から判断した建築工房グエル独自の判断になります。

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