株式会社建築工房グエル

04.制限時間

■制限時間がある
ルートB1(煙降下時間判定法)は避難安全検証法の告示で示された範囲において制限時間はありませんでした。そのため、避難時間がどれだけ長くなってもそれを上回る煙降下時間となれば判定そのものはOKとすることができます。

ルートB2(煙高さ判定法)では制限時間が設けられており、ある程度以上の避難完了時間(tescape)となると煙層下端高さはZ=0mの計算式が採用することになり、検証判定はNGになります。

階・区画単位の検証の場合では避難完了時間(tescape)が10分より大きくなると煙層下端高さがZ=0mとなり判定もNGとなります。【注1】

【注1】ルートB2では「十分間防火設備」も効果があるものとして計算に組み込まれているので、10分の制限時間はそのためでしょうか?

居室単位の検証では直接的に制限時間は示されていませんが、 内装仕上げによって定められる「燃焼抑制時間tm(room)」 という項目があり、その数値が20分、10分、5分あるいは計算 値となっています。この数値より避難完了時間が大きくなると「煙層上昇温度(ΔTr,room)」は、「最大煙層上昇温度ΔTroom(max)」 を採用するようになります。その「煙層上昇温度(ΔTr,room)」 は180℃より大きいとZ=0mとなり判定がNGとなりますが 「最大の煙層上昇温度ΔTroom(max)」は内装仕上げによって定められ る数値で、最小値でも630℃となっていることから、避難完了時間が 燃焼抑制時間を超えた場合はNG判定となることになります。

■大規模案件に使えるか? 【注2】
制限時間があり、それもその時間が階・区画単位の検証で10分程度となると大規模な案件にルートB2は使いにくくなることが予想されます。ただし、次に示す特徴から同規模案件でもルートB2はルートB1より避難時間の数値は小さくなる、あるいは小さくできる可能性があります。

【注2】実務的経験が皆無であることから記述している内容は推測の範囲であるものとお捉え下さい。
参考F15 多様なニーズに配慮した避難安全確保に係る規定の合理化に関する検討
https://www.mlit.go.jp/common/001351083.pdf

(1)階・区画でも避難開始時間(tstart)は火災室の1室の壁の長さから算定
ルートB1の場合、避難開始時間の算定はほぼ適用部分の面積の合計値であるため規模が大きければ大きいほど算定される時間も大きくなりました。ルートB2では避難開始時間は火災室ごとに算定し、その火災室1室のみの壁の長さであるため、建物全体の規模は避難開始時間の大小には直接影響しないこととなります。

(2)出口滞留時間(tcrowd)の算定は人数÷幅(扉や廊下)である
ルートB2の出口滞留時間(tcrowd)の算定は基本的に避難者の数に対して廊下や扉、階段の幅(階段部分・踊り場)が確保されているかどうかで数値が変わります(ルートB1の場合は避難者数に対する扉幅(一部階段幅))。そのため、避難者数に対して扉や廊下・階段幅が確保されていればこの数値が極端に大きくなることがないものと思われます。また、階・区画の検証ではルートB1のような避難先に避難者を収容できるかどうかの判定はありません【注2】のでB1より制約的な部分も少ないものと思われます。

【注2】ルートB2でも居室単位の検証では避難先の面積が計算に影響します。

ただし、ルートB2でも大規模案件、あるいは大規模でなくても避難完了時間が大きくなる次のような要素があります。

(A)滞留時歩行速度がルートB1の歩行時間のほぼ半分
建物規模が大きくなればなるほど、避難距離も長くなります。ルートB2ではB1の歩行速度のほぼ半分の数値が与えれているため、歩行距離の数値はB1よりも影響が大きくなります。

(B)建物階数による影響
平屋建てなら問題ありませんが、ルートB2には建物階数によって加味される項目があります。その影響範囲がどれほどのものかはまだ判明しませんが、適用部分が高層建物の一部であると避難時間が長くなる可能性があります。

(C)幅の狭い部分が1ヶ所でもある場合
出口通過時間は避難経路ごとに算定します。各避難経路への避難者数は避難者先への出口幅で振り分けられますがその出口幅より狭い部分が避難経路上にあると出口通過時間は大きくなります。さらにある程度以上の出口滞留時間(tcrowd)となると加算時間が発生します。出口通過時間は最長のものが採用されるため全体で1ヶ所でも避難経路に狭い部分が発生すると制限時間オーバーになる可能性があります。

実際の案件への適用例が現状皆無であるので、どの用途、規模でバランスよく判定をOKにできるのかはまだ不明ですが、以上のことを踏まえるとルートB1とB2ではOKにする手法や適用に適する用途・規模がかなり異なってくるものとなることが予想されます。

ポイント
階・区画単位の検証の他、居室にも以下のように事実上制限時間がある。
tescape>tm(room)だとΔTr,room=ΔTr,room(max)となる。
「燃焼抑制時間tm(room)」は内装仕上げの種類によって定まる数値(20分、10分、5分又は計算値)
「ΔTr,room(max)」は「最大煙層上昇温度」。ΔTr,room(max)は最小でも630℃。
「煙層上昇温度ΔTr,room」が180℃より大きいと「煙層下端高さZroom」は0m。

区画避難完了時間 火災室隣接部分
の煙層上昇温度
当該火災室におけ
る漏煙開始時間
火災室隣接部分の煙層下端高さ
である場合

※内容は予告無く変更する場合があります。
※記載する内容については告示の文章・計算式から建築工房グエル独自の判断になります。そのため、解説書が発行された際、その内容や国土交通省や審査機関開催の講演等で周知される解釈とは異なる見解となる可能性があります。
※告示476号(全館)については避難時間算定が他の告示によっていることなどから今回はここでは取り上げないものとします。

 

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