株式会社建築工房グエル

08.積載可燃物の発熱量より内装仕上材

■積載可燃物の発熱量の影響が小さくなる
ルートB1(煙降下時間判定法)では「積載可燃物の発熱量ql」【注1】の数値が居室単位の検証判定に大きく影響しました。

【注1】「積載可燃物の発熱量ql」は室用途に応じてどの程度可燃物が存在するかを示した数値です。告示では室の用途ごとにその数値(㎡/MJ)が定められています。

「積載可燃物の発熱量ql」はルートB1の場合、主に煙等発生量(Vs)の算定に使用される項目【注2】です。

【注2】居室単位の検証では避難時間算定時に有効出口幅Beffの算定で使用します。

例えば、「事務室(560MJ/㎡)」用途には比較的大きい数値が与えられているため蓄煙体積の小さい小規模な事務室だと天井が仕様設計より高めに設計する必要が出てくるなどの特徴がありました。また、さらに大きな数値を与えられている「住宅居室(720MJ/㎡)」では現実的な範囲における室規模や天井高さでは判定をOKにするのが困難となり、そのことから住宅系の用途には避難安全検証法(ルートB1)は向かないものと現状判断されています。

ルートB2(煙高さ判定法)でも検証計算に「積載可燃物の発熱量ql」の数値を用いる部分があります。その数値自体はルートB1と同じ数値【注3】が示されています。

【注3】今回新たに保育所や児童福祉施設などの追加用途がありました。

ただし、その影響範囲はルートB1の計算よりかなり小さくなっている模様です。

直接的に「積載可燃物の発熱量ql」の数値を使って算定するのは「火災成長率α」のみとなります。この「火災成長率α」は当該室に加え、「隣接する室」のものから最大値を採用することになっているので計算を行っている室のqlの数値をいくら下げても計算結果に反映しない場合があります。

また、「積載可燃物の発熱量ql」から算出した「火災成長率α」は避難開始時間(tstart)や燃焼拡大補正時間(t0)、一秒間当たりの発熱量(Q)などの算定に必要となる数値ですが、いずれもその影響は間接的なもので検証判定自体への影響はルートB1ほどではないことが予想されます。

■内装仕上げ材の影響が大きくなる
ルートB2では積載可燃物の発熱量の影響が小さくなる変わりに内装仕上げ材による計算の影響がより大きくなっているようです。

内装仕上げの種類のよって定められる項目は「内装燃焼係数km」「燃焼抑制時間tm」「燃焼表面積低減率φsp」「当該火災室隣接部分に面する壁の開口率Cw」などがあります。

また、「壁及び天井の面積Aw」というルートB1では見られなかった項目がルートB2では追加されました。さらに、内装の種類も「特定不燃材料」や「壁は木材だが天井は準不燃材料」などの項目が追加されています。

■内装仕上げ材の判定への影響
ルートB1では「不燃材」「準不燃材」と「難燃材」「木材その他」との間にギャップがあり、特に「木材その他」では判定をOKするのが困難な場合がありました。
ただし、内装仕上げ材の影響が大きいのは居室単位の検証に限られており、階・区画単位の検証段階では伝播室への開口部に防火設備の設置が行われているかどうかの方が判定に大きく影響する傾向にありました。【注4】

【注4】防火設備の効果が発揮されるには配置されている壁が準耐火構造又は不燃材で覆われている必要があります。

ルートB2の場合【注5】では次のようになっているものと思われます。

【注5】まだ実務的な経験がありませんので以下は推測的な内容とお捉え下さい。

■居室単位の検証の場合
まず、居室単位の検証ですが、内装仕上げ材の種類によって定められる、あるいは算定する「燃焼抑制時間tm」の数値がポイントとなります。この数値と避難完了時間を比較し、避難完了時間の方が大きくなると判定をOKにするのは難しくなります。燃焼抑制時間は不燃材だと20分、準不燃材だと10分と居室単位の避難完了時間としては大きい数値となっているため、あまり問題にならないことが予想されます。

【注6】を難燃材や木材で仕上げた場合でも、天井を準不燃材とすればtm=5分の数値が与えられており、規模がそれほど大きくない居室ならば、比較的判定はOKにしやすいことが予想されます。

【注6】床面から1.2m以上の壁が評価対象です。

全体を難燃材や木材で仕上げた場合、燃焼抑制時間は計算値で求めることになります。その計算式【注7】は2分を超えることはないようなものになっているため、規模の大きい居室や在館者密度の大きい用途の場合だと判定をOKにすることが難しくなることが予想されます。

【注7】壁及び天井の室内に面する部分の仕上げを木材等でした場合の燃焼抑制時間の算定式

■階・区画単位の検証の場合
階・区画単位の検証では「火災室隣接部分の煙層上昇温度ΔTc,comp、ΔTf,floor」の数値を180℃以下にする必要がありますが、その数値を算定する項目の一つに「噴出熱気流の質量流量md」があります。
その「噴出熱気流の質量流量md」の算定では開口部の種類と並列して「当該火災室隣接部分に面する壁の開口率Cw」を用います。そして、この数値が「火災室隣接部分の煙層上昇温度ΔTc,comp、ΔTf,floor」の算定に大きく影響するようで建具を防火設備としても内装仕上げ材を低い性能のものを選択すると煙層上昇温度が180度より大きくなる→判定がNGになることがあるようです。

ポイント
ルートB2では積載可燃物の発熱量の数値より内装仕上げ材の種類の方が検証計算・判定への影響が大きくなっている。
区画・階の壁の開口率は次のように定められています。

Cw 当該火災室の内装仕上げの種類及び当該火災室隣接部分に面する壁の種類に応じ、それぞれ次の表に定める当該火災室の当該火災室隣接部分に面する壁の開口率

難燃材料(準不燃材料を除く。)で造り、又は覆われた壁(準耐火構造の壁等を除く。)

当該火災室の内装仕上げの種類

当該火災室の当該火災室隣接部分
に面する壁の種類

当該火災室の当該火災室隣接部分に面する壁の開口率
壁(床面からの高さが1.2m以下の部分を除く。)及び天井の室内に面する部分(回り縁、窓台その他これらに類する部分を除く。)の仕上げを木材等でしたもの 準耐火構造の壁又は不燃材料で造り、若しくは覆われた壁(以下この表において「準耐火構の壁等」という。 0
その他の壁 1.0
その他のもの 準耐火構造の壁等 0
準不燃材料で造り、又は覆われた壁(準耐火構造の壁等を除く。 0
難燃材料(準不燃材料を除く。)で造り、又は覆われた壁(準耐火構造の壁等を除く。
である場合
0

である場合
1.0
その他の壁 1.0
この表において、は前号に規定する区画避難完了時間(単位分)を表すものとする。

※内容は予告無く変更する場合があります。
※記載する内容については告示の文章・計算式から建築工房グエル独自の判断になります。そのため、解説書が発行された際、その内容や国土交通省や審査機関開催の講演等で周知される解釈とは異なる見解となる可能性があります。
※告示476号(全館)については避難時間算定が他の告示によっていることなどから今回はここでは取り上げないものとします。

 

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