■スプリンクラー設備はルートB2から反映
ルートB1(煙降下時間判定法)ではスプリンクラー設備は検証計算に影響しませんでしたが、ルートB2(煙高さ判定法)から検証計算の中に組み込まれるようになりました。
ただし、スプリンクラー設備の有無が検証計算に影響するのは階・区画単位の計算時で居室単位の計算には組み込まれていないようです。
スプリンクラー設備が計算に関係する部分は次のようになります。
■燃焼表面積低減率
まず、「燃焼表面積低減率 φsp」の数値決定にスプリンクラー設備の有無が関係します。
もし、室が次の条件を満たしていれば「燃焼表面積低減率 φsp」は0.5、それ以外は0と定められています。
「天井の高さが3.5m以下であり、かつ、天井の室内に面する部分(回り縁、窓台その他これらに類する部分を除く。)の仕上げを準不燃材料でした室(スプリンクラー設備(水源として、水道の用に供する水管を当該スプリンクラー設備に連結したものを除く。以下同じ。)、水噴霧消火設備、泡消火設備その他これらに類するもので自動式のもの(以下「スプリンクラー設備等」という。)が設けられたものに限る。)」(告示本文より、一部文字の色を変えています。)
ここでの定義により「水噴霧消火設備」と「泡消火設備」もスプリンクラー設備と同等の扱いとなっており、併せて「スプリンクラー設備等」とまとめられいます。
「燃焼表面積低減率 φsp」は「火災室火災成長率 αfloor【注1】」の算定に用いる項目です。
【注1】区画の場合、記号は「αcomp」になります。以下、階単位の検証の場合の記号を示します。
この「火災室火災成長率 αfloor」は「階避難開始時間tstart(floor)」の算定に用いる項目になります。
■開口部の開口率
「開口部の開口率 Cd」の数値決定にもスプリンクラー設備が関係する場合があります。
「開口部の開口率」の数値は次の表によって定められています。
当該火災室の当該火災室隣接部分に面する壁に設けられた開口部の種類 | 当該火災室の当該火災室隣接部分に面する壁に設けられた開口部の開口率 | |
法第2条第九号の二ロに規定する防火設備が設けられたもの | 令第112条第十九項第一号に規定する構造である防火設備(同項第二号に規定する構造であるものを除く。)が設けられたもの | 0.01 |
令第112条第十九項第二号に規定する構造である防火設備が設けられたもの | 0.001 | |
10分間防火設備(法第2条第九号の二ロに規定する防火設備を除き、令第112条第十九項第二号に規定する構造であるものに限る。)が設けられたもの(当該火災室の壁(床面からの高さが1.2m以下の部分を除く。)及び天井の室内に面する部分(回り縁、窓台その他これらに類する部分を除く。)の仕上げを木材等でしたものにあっては、当該火災室にスプリンクラー設備等が設けられている場合に限る。) | 昭和48年建設省告示第2564号第一号ロに定める構造方法を用いる構造である防火設備(同告示別記に規定する遮煙性能試験に合格したものに限る。)が設けられたもの | 0.001 |
その他のもの | 0.01 | |
その他のもの | 1.0 |
「開口部の開口率 Cd」は「噴出熱気流の運搬熱量 Qf,floor」の算定時に用いる項目で数値が小さい方が検証判定的には有利になります。
■スプリンクラー設備等の一秒間当たりの有効散水量
「スプリンクラー設備等の一秒間当たりの有効散水量 msp」の項目にもスプリンクラー設備の有無が関係します。「有効散水量」とあるため、実際に設置されているスプリンクラーの性能数値が計算に影響しそうですが、数値は告示で定めれており次のようになっています。当該火災室のスプリンクラー設備等の設置状況 | スプリンクラー設備等の1秒間当たりの有効散水量 |
スプリンクラー設備等が設けられている場合 | 2.7 |
その他の場合 | 0 |
スプリンクラー設備があれば2.7kg/秒、なければ0kg/秒と定められており、実際に備わっているスプリンクラー設備の性能自体は直接関係しないようです。
「スプリンクラー設備等の一秒間当たりの有効散水量 msp」は「当該火災室の煙層上昇温度ΔTf,room」の算定に関係する項目です。「当該火災室の煙層上昇温度ΔTf,room」は「当該火災室の煙層密度 ρf,room」の算定に関係し、「当該火災室の煙層密度 ρf,room」は「噴出熱気流の運搬熱量 Qf,floor」の算定に影響します。
■実務的には・・・・・
このように「スプリンクラー設備」のイメージから予想される絶大的な効果を得るようには検証計算に組み込まれていないようです。また、煙層下端高さ(Zfloor,Zcomp)を直接算定する計算式にも組み込まれている項目でもありません。もし、その効果がある程度大きいものだとしてもスプリンクラー設備は、コスト、工期にも大きく影響を及ぼすため、避難安全検証法を適用するためだけに設置するということはまずないものと思われます。しかし上記のようにあくまで間接的な数値の計算に関係することであることから、判定がOKにならない場合にスプリンクラー設備が他理由で設置予定なら反映させてみて試算してみる、というのが実務的な状況になるものと思われます。実際に計算してみても「火災室隣接部分の煙層上昇温度 ΔTf,floor」の数値をいくらか小さくする効果はあるようで、これにより判定をOKにする場面はあるかもしれません。
ルートB2ではスプリンクラー設備の設置効果が反映されている。
ただし、その効果は限定的なものと思われます。
※内容は予告無く変更する場合があります。
※記載する内容については告示の文章・計算式から建築工房グエル独自の判断になります。そのため、解説書が発行された際、その内容や国土交通省や審査機関開催の講演等で周知される解釈とは異なる見解となる可能性があります。
※告示476号(全館)については避難時間算定が他の告示によっていることなどから今回はここでは取り上げないものとします。