■階・区画単位の検証限定
階・区画避難安全検証法は「居室単位の検証」→「階・区画単位の検証」の2段階で構成されています。
第1段階の居室単位の検証は検証判定を行うには必ず何かしらの計算は必要になります。
しかし、ルートB2(煙高さ判定法)では階・区画単位の検証において計算が不要になるか、もしくは条件によって煙層下端高さが1.8mとなる場合(可能性)があります。
■居室1室のみの場合
まず、居室が1室の場合です。居室が1室の場合の扱いについてはルートB2(煙高さ判定法)限定ではなく、ルートB1(煙降下時間判定法)でも同じ判断になると思います。
工場や倉庫など居室が1室しかない場合、ルートB1では「火災室→伝播室→到達先(直通階段あるいは屋外)」【注1】という階(区画)の煙伝播経路が発生しないことから階・区画単位の検証計算が成立しません。そのため、居室単位の検証計算のみで階・区画の検証計算が成立するものと判断ができます。
【注1】それでも「居室→直通階段(または屋外)」の煙伝播経路が発生するものとして階・区画の計算を求められる場合がありました。しかし、「居室→直通階段(または屋外)」を含めて検証をすると階・区画避難時間では避難開始時間に3分(または5分)の加算時間があるため、居室の規模が相当大きいか強力な排煙設備を設置しないと判定はOKになりません。それを回避するためか検証計算を行うためだけの前室の設置を求められることが弊社の扱った案件ではありました。
ただし、それは「計算が成立しない」という観点のみからの解釈でした。
ルートB2でも居室が1室のみの場合、「火災室隣接部分」が存在しないため、ルートB1と同様、検証計算が成立しません。そのためででしょうか、ルートB2のパブリックコメントに対する回答で1室のみの場合の対応についての記載【注2】があります。この記載により、居室のみの検証計算でも階・区画避難安全検証法の計算として成立する場合があることの裏付けがとれたものと思われます。
【注2】「建築基準法施行令の一部を改正する政令の施行に伴う避難安全検証法関係告示の制定・改正案に関する意見募集の結果について 建築基準法施行令の一部を改正する政令の施行に伴う避難安全検証法関係告示の制定・改正案に関する意見募集に寄せられたご意見等と国土交通省の考え方」で次のような質疑応答があります。
パブリックコメントにおける主なご意見等 | 国土交通省の考え方 |
一室のみを区画部分とし、区画避難安全検証法を適用することは可能か。その場合、居室避難検証のみで区画避難も検証されたとみなせるか | 貴見の通りです。 |
居室1室のみの案件の場合、居室単位の検証のみで階(区画)避難安全検証法の計算は成立する。
■火災室隣接する部分が送風機の設置された付室である場合
こちらはルートB2限定になります。
まず、煙層下端高さは建築物の部分によって算定方法が異っており、それぞれ「イ」「ロ」「ハ」と個別に定めれています。
計算で煙層下端高さを求めるのは「イ」で建築物の部分は「火災室隣接部分」が該当します。
「火災室隣接部分」以外の部分、つまり、火災室に建具を介して直接面していない室については「ロ」で定めれており、次のようになっています。
各火災室隣接部分の煙層下端高さのうち最小のもの | 火災室隣接部分以外の部分の煙層下端高さ |
1.8m以上である場合 | 1.8 |
1.8m未満である場合 | 0 |
上記の表では、「ロ」に該当する部分は「イ」、「火災室隣接部分」の計算結果に準ずるものとなっています。「ロ」自体に計算は不要ですが、「イ」の結果によって定められることから計算自体は必要にはなります。
計算が不要と思われるのは「ハ」になります。「ハ」は「直通階段の付室」の場合のものが定められており、本文では次のように記載されています。
「直通階段の付室(当該直通階段の階段室又は当該付室の構造が平成28年国土交通省告示第696号に定める構造方法(同告示第四号に定める構造方法にあっては、送風機が90m3/分以上の空気を排出することができる能力を有するものに限る。)を用いる構造であるものに限る。)1.8m」
そのため、上記条件を満たせば、検証計算的なものは行わなくても煙層下端高さは1.8mになります。
もし、「付室」が「火災室隣接部分」であった場合はどうなるのか?
その場合、「イ」の記載の中に「ハの場合は除く」とあるためやはり計算は不要で1.8mとなるようです。
階・区画単位の計算を全く不要とするには火災室隣接部分が全て上記条件を満たす付室であることが必要です。ただ、そのような案件は小規模なペンシルビルのようなものが想定されますが、その規模の建物で避難安全検証法の計算を省略するために付室の条件を満たすことや「90m3/分」の送風機を設置することはあまり考えられない、とは思われます。
階・区画単位の煙層下端高さの算定方法は「イ」「ロ」「ハ」の3種類があり、建築物の部分によって定め方が異なる。
※内容は予告無く変更する場合があります。
※記載する内容については告示の文章・計算式から建築工房グエル独自の判断になります。そのため、解説書が発行された際、その内容や国土交通省や審査機関開催の講演等で周知される解釈とは異なる見解となる可能性があります。
※告示476号(全館)については避難時間算定が他の告示によっていることなどから今回はここでは取り上げないものとします。