仕様設計に避難安全検証法の計算
(100㎡以下の居室の場合)
仕様設計(ルートA)では床面積100㎡以下の居室は内装を不燃材料で仕上げると『火災が発生した場合に避難上支障のある高さまで煙又はガスの降下が生じない建築物の部分』として排煙設備を設ける必要がなくなります(告示1436号、建築基準法施行令第126条の2第五項より)。
一方、性能設計(ルートB)では避難安全検証法と告示1436号の併用は禁止されているため室の規模にかかわらず居室単位の検証計算を行い判定がOKになることを確認する必要があります(『2001年版 避難安全検証法の解説及び計算例とその解説』P251質疑応答3)。
では、100㎡程度の居室に検証計算を行うと判定はどうなるのか。以下、検証してみます。
まず、検証する居室は次のようなものとします。
床面積:9.5m×9.5m=90.25㎡
内装:不燃材
天井高さ:2500mm
扉は幅800mmのものを壁中央(歩行距離が短くなる)に配置しています。また、避難先となる廊下は避難者を全員収容可能であるものとします。
検証計算を行うには室の使用状況に合わせた在館者密度、歩行速度、積載可燃物の発熱量の数値を定める必要があります。
今回は次の用途について検討します。
使用形態 | 在館者密度p(人/㎡) | 歩行速度v(m/分) | 積載可燃物の発熱量ql(MJ/㎡) |
事務室 | 0.125 | 78.0 | 560 |
打合せ室 | 0.125 | 78.0 | 160 |
休憩室※ | 0.160 | 78.0 | 240 |
社員食堂 | 0.700 | 78.0 | 240 |
※ゆったりくつろぐタイプの休憩室とする。
上記条件で検証計算すると次のような結果となります。
使用形態 | 避難開始(分) | 歩行時間(分) | 通過時間(分) | 避難時間(分) | 比較 | 煙降下(分) | 判定 |
事務室 | 0.317 | 0.157 | 0.177 | 0.651 | ≧ | 0.460 | NG |
打合せ室 | 0.317 | 0.157 | 0.157 | 0.631 | ≦ | 0.854 | OK |
休憩室※ | 0.317 | 0.157 | 0.201 | 0.675 | ≦ | 0.712 | OK |
社員食堂 | 0.317 | 0.157 | 0.877 | 1.351 | ≧ | 0.712 | NG |
※ゆったりくつろぐタイプの休憩室とする。
可燃物が多くあるものとされている「事務室」と高密度での利用が想定されている「社員食堂」の判定がNGとなっています。
天井高さがやや低めの想定でしたので次は天井高さ2700mmで計算を行ってみます。
使用形態 | 避難開始(分) | 歩行時間(分) | 通過時間(分) | 避難時間(分) | 比較 | 煙降下(分) | 判定 |
事務室 | 0.317 | 0.157 | 0.177 | 0.651 | ≧ | 0.544 | NG |
打合せ室 | 0.317 | 0.157 | 0.157 | 0.631 | ≦ | 1.011 | OK |
休憩室※ | 0.317 | 0.157 | 0.201 | 0.675 | ≦ | 0.843 | OK |
社員食堂 | 0.317 | 0.157 | 0.877 | 1.351 | ≧ | 0.843 | NG |
※ゆったりくつろぐタイプの休憩室とする。
煙降下時間はそれぞれ多少長くなりましたが「事務室」「社員食堂」の判定が覆るまでには至りません。
では、NGとなる居室に仕様規定程度の排煙設備を設けたとしたらどうなるのでしょうか?
使用形態 | 避難開始(分) | 歩行時間(分) | 通過時間(分) | 避難時間(分) | 比較 | 煙降下(分) | 判定 |
事務室 | 0.317 | 0.157 | 0.177 | 0.651 | ≧ | 0.601 | NG |
打合せ室 | 0.317 | 0.157 | 0.157 | 0.631 | ≦ | 1.237 | OK |
休憩室※ | 0.317 | 0.157 | 0.201 | 0.675 | ≦ | 0.994 | OK |
社員食堂 | 0.317 | 0.157 | 0.877 | 1.351 | ≧ | 0.994 | NG |
※ゆったりくつろぐタイプの休憩室とする。
天井高さ2700mmに仕様設計程度の排煙設備を設けた場合、煙降下時間を引き延ばすことはできましたが、全ての使用形態において判定をOKにするまでには至りませんでした。